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2月2日(火)毎日新聞
<社説>石綿救済新法 労災補償との差を縮めよ
 「静かな時限爆弾」と恐れられているアスベスト(石綿)による健康被害の救済がいよいよ動き出す。


 労災補償の対象とならない石綿関連工場の従業員家族や周辺住民の健康被害を救済する「石綿健康被害救済法(石綿救済新法)案」が衆院本会議で与党などの賛成多数で可決された。参院で審議され今月上旬にも成立の見通しだ。政府は3月中に被害者からの申請を受け付ける。


 被害者救済は石綿を原因とする中皮腫や肺がんを発病し、現在、治療を受けている被害者と、すでに死亡した人が対象となる。患者には医療費と月額10万円の療養手当、遺族には弔慰金280万円と葬祭料20万円が給付される。


 石綿新法が被害者救済に道を開いたことは確かだが、その内容には大きな問題があり、混乱を招く恐れがある。


 第一は労災補償と石綿被害救済の中身があまりにも違うことだ。労災で認められている遺族に対する年金や就学援護費などが、石綿救済では支給されない。被害者や遺族らは「労災並みの補償を」と求めている。政府はこうした切実な訴えに耳を傾けることが必要だ。石綿工場で被災した従業員と周辺住民の補償に大きな差があっていいのだろうか。政府には被害者や有識者らの意見を聞き、救済内容を見直すように求めたい。


 第二は補償財源の問題だ。新法では初年度は国が財源を負担するが、19年度からは地方自治体と約260万社あるすべての労災保険適用事務所から拠出を求め財源をまかなう仕組みになっている。


 全国知事会からは昨年11月、公立学校や公共施設などの石綿除去で多額の費用負担を余儀なくされているとして、「公的負担については国の責任で対応を」との申し入れがなされている。


 各自業主が「広く薄く」負担し、石綿との関連が深い場合には追加拠出を求めるが、金額など具体的な詰めはこれからだ。石綿との関連が薄い事業主らからは一律負担に批判的な声もある。


 新法が成立すれば、直ちに被害者からの申請が始まるというのに、救済内容や財源について問題やあいまいな点を残している。


 なぜ、こんなことになるのか。
 それは、政府が石綿被害の責任問題から逃げてきたからだ。政府は石綿による健康被害について「省庁間の連携が不十分だった」と認めたが、責任はないという立場を変えなかった。石綿被害を「補償」するのではなく「救済」する制度とした結果、全額税金ではなく、地方自治体や事業主にも拠出を求める方式となった。


 しかし、全国知事会も申し入れ文書で指摘しているように「今回の事態は国の対応の遅れにより生じた」というのが常識的な見方だ。国の責任逃れの姿勢が、混乱や問題を起こしていることを自覚すべきではないか。


 石綿被害の拡大をなぜ食い止めることができなかったのか。参院でしっかりと議論を尽くし、新法の不十分な点を正すべきである。
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